セブ島−潜って食べて−

高尾広明

8.終わりに

私にとって、旅というと、国内、海外を問わず、設備の整ったホテルに泊まって、自宅に居るのとあまり変わらない情報量と便利さ、快適さが普通になってしまっていました。学生時代を思い出すと、個人的にお金が無かったし、日本全体でもそれほど豊かではなかったので、いつもお金の掛からない旅でした。もっとも、当時は自宅でもインターネットは勿論、水洗トイレも無い生活でしたから、今から思えば元々、あまり便利でも快適でもない生活で、旅に出て不便さや不快さが増加するという思いもありませんでした。

現代はお金さえ出せば、便利快適な旅は幾らでも可能でしょう。しかし、旅には程度の差はあっても、日常からの脱却という要素は欲しいので、不便不快も旅の魅力の一つと、今回は感じた次第です。しかし、不便には耐えられても、不快、更に不潔には限度があります。人によって、わざわざお金を使って行く旅で、どの程度の不便、不潔、不快を容認するかは個人差が大きいと思います。私にとっては、今回は日常を離れるという魅力と三つの不のバランスが取れていました。(A君の不への耐久力はもっと大きい)

もう一つ、不安についてですが、一般的に僕の村のセキュリティーは極めて良いと感じました。狭い社会で、その地域に居る人達の状況をお互いに良く知っているというのが治安が良い理由です。旅行者さえも例外ではなく、私はA君の友人ということが知られており、それなりの待遇を受けることができました。A君は既にこの村の顔で、通りを歩いていても、すれ違う人毎に名前を呼び、声を掛けます。向こうからも、時としてA君の方は知らない人からも良く声がかかりました。

最後の日に行ったゴルフ場には、ガードマンが数人居て、ピストルとライフルを持っていました。それなりに警戒は必要なのかもしれません。実は、私のコテージにもガードマンが居て、ピストルで武装していたのです。このおじさんが帰国前夜、10時頃だったと思いますが、突然部屋を訪ねてきました。向こうは私を知っていたのでしょうが、こちらは初対面、何の警戒感も無くドアを開けるとピストルを腰にさしたおじさんが立っているのを見たときは一瞬ドキリとしました。このおじさんは、冷蔵庫のインベントリーチェックに来たのでした。住人同士、お互いに知っているということはプライバシーが知られるということ、例えば、誰が幾らで家を建てた、等という情報は皆知っています。その分、都会人には煩わしい気がすることも確かです。しかしこれによるセキュリティーの向上は、ピストルを持ったガードマンに勝ると思います。

もっとゴルフがしたかったとか、ダイブでは鮫に会いたかったとか、小さな不満は残ったものの、近年稀に見る満足度の高い旅でした。この満足は僕の村を紹介してくれて、滞在中はフルに面倒をみてくれたA君ゆえです。一般的に地元の人は正直で、ばかばかしい値段を吹っかけられたり、といったリスクは低そうです。しかしA君のおかげで、ありとあらゆる意味で気を使う必要が全く無かったのは大きい。美味しい店、正直な人達と接せられたのは、全てA君のおかげ、A君有難う。
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