2.あなたに夢中−シルビーからの手紙ー |
初めまして。このたび、縁があって葛飾の甲田家の家族の一員となったシルビーです。ミニチュアー・ダックスフントです。今年の7月19日に山形の酒田で生まれ、日本橋のあるペット・ショップに滞在中、甲田家のお父さんと目が合ってしまったのです。 あれは9月の中旬でした。お父さんはじっと私を見つめていてそれから店員さんに頼み私をケージから出して貰うと抱っこしていて放しませんでした。そばにいたお母さんに「駄目、駄目」と言われてしぶしぶ立ち去って行きましたがしばらくして二人で戻ってきました。その瞬間、私の運命は決まりました。お父さんに運転するステーション・ワゴンの助手席でお母さんは私の入った箱をしっかりと抱いていました。本当はお母さんも私が気に入っていたのです。 甲田さんの家には人間のお姉さんとミニチュアー・ダックスのお姉さん 3頭とが待っていましたがワクチン未接種の私は隔離されて2階で生活することになりました。「シルビー」と呼ばれるのが自分のことと気がつくまで多少の時間がかかりましたが、名前の由来はフランスの歌手シルビー・バルタンだそうです。テレビのコマーシャルでリバイバル・ヒットの「あなたに夢中」という曲が私のイメージ・ソングに決まりました。お父さんの自慢は若い頃シルビー・バルタンとカトリーヌ・ドニューブとに会い、拙いフランス語でサインを貰ったことだそうです。 人間のお姉さんが私の教育係に決まりましたが、大学の歯学部の学生なので私を抱っこして勉強しながら勝手に口を開けて乳歯を調べたりします。時には「お父さんはお酒飲みで嫌よね」などと私の同意を求めますが返答に困ってしまいます。 もっと困るのは「シルビーって耳が短いのね」と言いながら私の両耳を引っ張るのです。食事はドライ・フードを水でふやかしてものから始まり次第に固いままで出るようにな って来ました。1ヶ月して近所のペット・クリニックでワクチンを接種を受けてからようやく1階の先輩たちと対面となりました。 甲田家の室内犬はすべて雌だと決まっているそうでまるで宝塚歌劇団のようです。シュガーさん(4歳)は茶髪で2回も出産されたそうで、郷里の母犬を思い出して甘えようとしたら「ううー」と威嚇されました。「すみません、シュガーおばさん」と謝ったら 「おばさん」と言う表現が気にさわったのかそれ以来、私は無視されています。 ジョジュさん(3歳)は金髪で未婚です。優しいお姉さんで私を可愛がってくれますが食事の時だけは私を押しのけて先に食べようとします。 ノワルさん(1歳半)は黒髪で、毛並みは白黒(ダップルというのですが)の私に似ています。とても気が優しくて、シュガーさんに私がお仕置きされそうになると仲裁してくれます。私は嬉しいのでノワルさんの長い耳をお礼に思いきり噛んであげます。するとノワルさんはびっくりした顔をして逃げていきます。どうしてでしょう。きっと照れてるんだと思います。 家の外の庭にはビーグルのエリックさんとミックスのレイラさんとがいます。エリックさんは雄でレイラさんは雌で真っ黒です。どちらも10歳くらいだそうですがエリックさんは寒いと腰が痛いようで元気がありません。ちなみにエリックさんの名前はギター弾きのエリック・クラプトンから、レイラはその人の同名の曲から貰ったそうです。お父さんもお母さんもその曲が好きだそうです。レイラさんは私に関心が無いようですが、エリックさんは声をかけてくれました。「やあ、君がシルビーちゃんか。宜しくな。ところで君の先祖は確かアナグマ狩りの猟犬だったな。わしの先祖はウサギ狩りだけどわしはウサギが苦手なんじゃよ。よぼよぼ・・」 気がついたら甲田さんの家には犬の他にウサギと亀がいました。ウサギは以前は2羽いたのが夏に1羽が急にお月様に戻り、亀は2頭いたリクガメの1頭(ヒョウモンリクガメ)が秋にやはり急に旅に出たそうです。でも水槽がいくつもあって石亀、クサガメの仲間が10匹以上いるので賑やかです。お父さんの口癖は「私の家族は、犬○頭、亀○匹、子ども2人、妻1人です」で、自己紹介のたびに同じ事を言ってはお母さんに怒られているようです。 そう、言い忘れましたが、甲田家にはお兄さんもいました。どこか遠くのアパートに住んでいるそうで医学部の学生さんらしいですが真っ黒に日焼けしていて時々ひょろっと現れてご馳走を食べていなくなります。お兄さんがいるとお母さんが嬉しそうにして食事が豪華になるところを見るときっと甲田家では偉い人なんでしょう。 私たち犬の社会では順位を決めるのですが甲田さんたちを見ていると悩んでしまいます。ノアルさんに聞いても良く判らないそうです。ただ言えるのはお父さんの地位が一番下のようです。夜はいつもお酒を飲んで犬用のクッションで寝たりしているお父さんにお母さんもお姉さんも冷淡です。でも散歩に連れて行ったり朝はミルクを飲ませてくれて食事を支度したりしてくれるのでご機嫌だけは取っておいたら、とジョジュさんにも言われました。 何もわからない未熟なシルビーですけど可愛がってください ワン |
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