21.郡山物語(5) メダカもいました
  そのころ金魚だけでなく、メダカを10匹ほど子供がどこかから拾ってきた。 珍しいうちは世話をするが、せいぜい一週間であとはザリガニやハムスターの 場合と同じく放置され、親が尻ぬぐいをすることになる。といっても朝(実際 は昼近く)、パラパラと餌をやり、時々水槽の水を換えるだけだが。

  メダカの動きはよく見るとなかなか味がある。金魚のように鈍重でなく(実 は金魚でも動きの鋭いのもある)、人の気配を察するとさっと水草の陰に素早 く身を隠す。そこで人影が去るまでじっとひそんでいるのだが、よく見ると体 の各部を細かく動かすことによって静止しているのだ。ところが餌をまけば、 人影もなにもあったものではない。水面に浮上して一心不乱に食らいつく。こ の現金さと愛嬌のなさは金魚と対照的だ。

  5月なかばを過ぎると雌が卵をぶらさげだした。目をこらして見るとほんと うに小さいのがたくさん孵化して水面を泳いでいる、というか浮遊している。 おや、こうやってメダカは増えるのか、新しい水槽を用意しなければ・・と思 っていると翌日には1匹残らず消えてしまった。親メダカの空腹の餌食になっ てしまったとしか思えない。虐待どころの話ではない。なんというやつらだ。 

 本で飼育の仕方を調べればいいのだが、それも面倒なので、金魚やメダカは 水草に卵を産みつけるといううろ覚えの知識にもとづき、新しい水槽に親メダ カの水草を2,3本放り込んだ。そのまま2,3日経って見てびっくり。それ こそうじゃうじゃと無数の子メダカが泳ぎ回っている。一週間もすると、数は 減ったが、それでもかなりの数が5ミリほどに成長して水槽いっぱいに群れて いる。これは面白い。

  こうなると当然、水草をもとの水槽に戻し、翌日3つ目の水槽を用意してま た放り込む。2番目のやつらは1センチほどになると、もう親に食われる心配 はないので、人口密度を調整する見地から最初の水槽に一部分を移住させる。  こうして水槽が6つほどになったときに女房に一喝された。「ベランダをメ ダカだらけにするつもりですか!」その数、何百匹だったか。

  それ以上はあきらめたが(水草の移動をやめるだけのこと)、かなりの数が 冬を越した。20年ほど前の奈良盆地は、今と違って雪も時々降り、水面には厚 い氷も張ったが、メダカがどうしているのかを見るのは興味深かった。そして 次の春が深まると、またメダカの数は増えた。近親交配を繰り返したせいかど うかはわからないが、背骨が曲がった奇形の稚魚もいて、それでも成長した。 子供のいる家におすそわけもした。ただ見ているだけだが何が面白いのかと問 われると返答に困る。サックス奏者の坂田明がミジンコでこれをやっていると いうことを後になって知った。その気持ちはわかる。良く見れば威張っている のとか、縄張りとか、何となくわかるような気がする。といってもかれほど生 物学的知識も根性もないので、何シーズン後かを境に、ねぼけたこの街にふさ わしいといえなくもないこの趣味から撤退した。いい年をした男が朝から水槽 をじっと凝視しているというのは見られた図ではない。宿酔いで頭がぼうっと しているにしても。

  実はこの教訓生かされず、後年のハムスターでも、廊下を籠だらけにしてし まった。Show君ちもそうではないですか。 

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