16.山焼きは10分が勝負
若草山の山焼きは昔から1月15日(祝)と決まっていた。ところが休日法の改正で数年前からおかしくなった。しかしいつになってもこの日はとういうわけ
か底冷えの寒さの日だ。今年は11日(日)でやはり寒かった。

毎年、歩いて5分のところにある歩道橋に登って見るのだが、直線約4キロ向こうで山が燃やされる。遠いのであまり迫力はないが、正月も終わりという季
節感はある。

今年は、直接山まで行くことにして開始40分前に家を出た。中腹まで登って見物できるのだ。ただし結構な急斜面なので、直立して上方を見るには技術と体
力がいる。座ったとしても頂上を向いては座りにくいから、皆、山を背にして座って待っている。午後5時50分に200発の花火が打ち上げられ、6時ちょうど
に枯れ草に点火される。この季節のこの時間は陽は落ちている。向かい側の生駒山の後ろに僅かの光が残っている。

山の途中に、これ以上は立ち入り禁止のロープが張られ、そこまではギャラリーで埋まっている。種火となる焚き火の炎が燃え上がっている。そして大きな
音響とともに花火が始まった。普通の花火大会と同じである。なぜ山焼きをするようになったのかといういわれはあるが(東大寺と興福寺の地所争い)、こ
こでなぜ花火なのかはわからない。どう考えても夏の夜の納涼のためのものであって、この寒空では首がちぢまるだけだ。それでも何か開始の合図がない
と、話が進まないということだろう。

花火が終了すると消防団の点火隊がロープの向こうに種火を持って駆け上がって火がつけられる。頂上のほうにも待機していて、横列の火の点がやがて線に
なり、上方へと炎が上昇していく。

観光写真では山全体が燃え上がるように写されているが、あれは何度もシャッターを切っているためで、あのように燃えたら点火隊に焼死者が出る。燃える
ものは草だけだから、その場所が燃え終わったら火は消える。つまり、炎の勢いは風や草の状態で強くなったり弱くなったりするが、あとは横一線の火がた
だ移動していくだけなのだ。だから苦しい姿勢でいつまでも同じものを見ていることはない。6時10分になると、見物人はぞろぞろ山を下りてくるのであ
る。目の前で火が燃えているからといっても、距離はあるからなにしろ寒い。
そして奈良公園まで降りてきて後ろを振り返って、燃えているのを見たことを再確認して帰る。

翌日になって、市内の道路を車で走ると、昨日まで藁色だった山全体がまだらに焦げている。このほうが山焼きのリアリティがある。
前へ
目次へ
次へ

同期の人からに戻る