11.桜と海

次は奈良公園か金魚の郡山にしようかと思っていましたが、吉野の桜が出たのでそれを書いておきます。

吉野の桜はソメイヨシノではなくて、いわゆる山桜だ。開花時期はソメイヨシノより1ヶ月近く遅れる。おっしゃるとおり気温に応じて、つまり標高に応じて下千本、中千本、上千本、奥千本というように順々に咲いていく。咲いている期間も少し長いように思う。私鉄の改札口にはどこが満開かというきめ細かな情報が出るが、いずれにせよ品種といい、咲き具合といい派手さはないので期待していくとがっかりしてしまう。しかし、帰ってからなにかしみじみと印象に残るといったところがある。遠くから眺めないとだめ。権現堂を越えて水分神社あたりから鑑賞するのが良いとされている。

ドイツの桜はキルシュバウムといって2月頃から2ヶ月近く満開状態が続く。花びらは純白で樹木全体は小ぶり。厚いコートを着ながら寒空の下で見る、一気に散らない桜だ。

こうしてみるとソメイヨシノの異様さのほうが意識されてくる。冬から覚めて気温の上昇とともに一気に咲き、開花期間は短く一夜にして花吹雪となって散る。いさぎよさの代名詞のようになっているが、どこか狂気じみて、確かに咲いていたのだがほんとうに咲いていたのかと思わせつつ夢のように去っていく。

熊野灘。うねうねくねった細い長い街道の峠を越えると、そう、新宮の町の向こうに一気に眼下に開けるスケールの大きい明るい海はすごい。ここまでの長い旅程をすべて忘れさせてしまう。夏休みは伊豆半島を一周か半周するのが年中行事になっているのだが紀伊半島、房総半島、伊豆半島はあらゆる点で大中小だ。白浜はいずれにもある。半島の西側、突端、東側と別々なのも面白い。

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