10.ごぶさた(竹内街道、十津川街道)

かなり間があいてしまったが、ようやく点描10回目となった。一休みのついでに、今までの補足やら、いただいたコメントについて書いておきたい。

最近、「街道」が意識せざる趣味であったと改めて気づいた。どこまでも続く道を曲がりもせずに歩くのも、原ちゃりでいくのも、車を運転していくのも好きだ。変わりゆく風景や町並みの空気を感じとるのに飽きはこない。車窓でもかまわない。新幹線の東京京都間は、ほぼ暗記してしまったが、それでも本を読んだり居眠りをして過ごすことは、ほとんどない。次に現れるであろう風景が予感と一致した瞬間。微妙なあるいは大きな変化を感じた瞬間、心が動く。ましてや初めてのローカル線ならば目をこらして車窓にへばりつく。何を見るのだろうか。自然観察ではない。家や道路の形態、使われ具合。それらを通じた暮らす人々の息づかいといったものに興味がある。ノゾキと大差ないのかもしれない。時々乗る総武線の電車でも30年前の風景と現在とを知らず知らずのうちに比較している。

竹内街道というのは奈良県高田から二上山を越えて富田林に抜ける道だ。旧道と国道166号が絡み合っている。峠越えがあり、たまたま夜中に車で走ったことがあるのだが、霧が出て怖い思いをした。足元から湧いて出るような霧だった。これは飛鳥と難波を結ぶ古道で、現在では大阪奈良間はここより北よりの二本の阪奈道路がメインだ。しかし古くはこちらが主要道で平城京に至るシルクロードの最終経路といわれている。生駒と門真を結ぶさらに北の国道163号は清滝街道。

十津川街道は五條から新宮に至る国道168号と絡み合って紀伊半島を縦断する壮大な街道。以前に書いた五新鉄道のルートを含んでいる。国道とは名ばかりで普通車さえ行き違いができない狭い道幅が少なくない。そして急カーブ、断崖絶壁の連続だから夜は絶対に走りたくない。崖崩れがあると数ヶ月不通になることもある。それでも長さ300m高さ60mという日本一の谷瀬の吊り橋(風に吹かれたら高所恐怖症でなくてもたまったものではない)や河原に穴を掘って入る川湯温泉など知る人ぞ知る名所が目白押し。新宮まではどんなに急いでも5時間近くかかる。東北新幹線が延伸して、本州内で交通機関を使って東京まで5時間以上かかるというところはほんとうに少なくなった。少し東を走って熊野に抜ける国道169号線ルートとともに、和歌山、三重、奈良の県境は残された秘境といえるだろう。是非訪ねてみてください。

ならまちについては書きたいことがたくさんあるが、反省もある。宇多さんを趣味の人と描いてしまったけれど、かれはもちろん、消えていきつつある古き良きものを後世に正当に伝えたいという使命感と価値観を強烈に持っているという点を少しないがしろにしたようなのだ。しかし、こういった、場合によっては好みに属するものは人間関係のなかでは扱いが慎重であるべきかな、と思う。早い話が音楽でも株でも馬券でも、ぼくは薦められるとそれだけでいやになってしまうことが結構多い(といいつつ、上の部分でもお薦めがあるなあ)。情報提供と興味をもってもらいたいということの境界線はなかなかむずかしい。

宇多さんのならまちの家をスタッフの拠点のひとつとして制作した河瀬直美の映画「沙羅双樹」が関西では6月に封切られる。もうひとつの宿泊所は昭和初期の民家をそのまま使った自然食レストランの「菜一輪」で、出演の樋口可南子は二階和室に一晩泊まって、こんな恐ろしいところには寝られないと逃げ出したそうだ。

http://www.et.sakura.ne.jp/~sai1rin/

前作「萌の朱雀」はカンヌ映画祭で賞を取って話題になったが、「沙羅双樹」はアプライしたものの受賞は逃した。自分に縁がないだろうからか、ぼくはこういった賞も信じない。「いいものはいい」し、それが他人に通用するかはわからない。前作と同じく今回も評価は分かれるだろう。、自分もここらへんを見て初めて「こういう物語だったか」と事後的に知った次第なのだが、そんな映画ははなから受け付けない人もいるだろう。今回は多少、非現実的な物語はあるようだけれど。観たあとで「よかった」がどのくらい持続するかだ。

http://www.spice.or.jp/~cineaste/l/914.htm

http://www.sharasouju.com/

奈良の街は今、この映画ポスターとピーターを整形手術したような高市早苗の顔面クローズアップの国会報告会ポスターがあふれかえっている。

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