11.胡椒降る講堂とBBC沙翁劇レコード
同期生からのコンタクトを契機に、今年はクリスマスあたりに帰省し母校の高校へ向けて昔の通学路を辿ってみようかと思う。

試しにGoogleEarthを起動してJR駅からその方面を探ると、何と、いつの間にやらモノレールが走っている!
その路線を辿って県庁まで行けそうだ。後は検討で文化会館の横を登って行けば校門へ続く坂道。

滑らかに空から俯瞰しつつ近づいて行くと、これはまるで魂魄となり果てて後、故郷に帰還する魂の眺める景色のよう…
既に逝去された朋友らの魂と共に母校を訪れているような気さえしてくる。
…ウーム、何だかサンチマンタリスムを刺激されそうだ。

上からの眺めでは、緑が生い茂った坂道を登り切ったところのあの風格ある建造物は見えず、殺風景なコンクリートの校舎に変わってしまったようだ。あの時計台と石の演壇のある中庭も、もはや消えてしまった様子。ただ講堂は、その屋根の様相から外観は残っているように見える。

講堂の屋根を見下ろしていると、二三の情景が蘇ってくる。まず、あれは入学式だったろうか。

重そうな木の椅子に座って400人を越える新入生が畏まっていると、 <*1>
突然、クシャミの音が聞こえた。二人、三人…と次第にその音が広がっていく。何だ何だ、と周りを見渡すと、皆ハンカチをあてて、式典どころではない。

辺りには白い粉が舞っている。振り仰ぐと、二階席ギャラリーから身を乗り出してコショウ瓶を手にする上級生の姿。伝統の「胡椒の洗礼」だということを後で聞かされた。

暗くて何となく重苦しいその講堂に数クラスだったか一学年だったか集められたのは、確かBBC(英国放送協会)制作のレコードによるシェイクスピア劇鑑賞会だった。<*2>
英語の先生の司会で壇上のスピーカーシステムから響いたのは、『ハムレット』だったか『マクベス』だったか、記憶は既に曖昧の彼方。何か台詞が聴き取れたわけではない。
あの胡椒の粉が舞った講堂の空間に、沙翁劇の格調高い声が響いたことだけが印象深い。
例え理解を越えたものであっても、若い時に本物に触れさせておくことの意味を私はこの(スパイスの効いた)回想からも納得する。

後年、例の同僚S氏の常駐するLL(ランゲージ・ラボラトリー)の小部屋で珈琲をご馳走になりながら、かのBBCの沙翁全集が棚にあるのを見てかつての講堂の体験を思い出したのだった。

壇上で司会説明されたM野先生の、授業での忘れがたい一駒は次回に記したい。

<*1>
同期会サイトによれば、卒業生466人。
A組からI組まであったので一クラス51〜52人、まさに団塊の世代。

<*2>
cf.「音声読み上げソフトのシェイクスピア」について、自分のブログで記したことがある。
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