時田清俳句・短歌選

時田清 作

時田清の座右の句

「春風や闘志いだきて丘に立つ(高浜虚子)」

千葉高43年卒が習った菊地久治先生の言

「句は才能ではなく、ひたむきに見詰める心なのですね」


平成31年4月に『句歌集 花は葉に』を上梓されました。「同期の著作」のコーナーにもアップしております。

<時田清 作品>


k令和2年の3月から5月にかけて世界中にコロナウィルス感染騒動が生じました。その折りに、彼が詠んだ句と歌です(2020/6/12)。
・春陰の海やうねりくる「イマジン」
(世界のアーティストがリモートでイマジンを合唱)

・ただ瞼閉づる祈りや桃の花
(ウイルスで無念の死をとげた方々を悼む)

・もの憂げに花を眺むや夏マスク
(マスクは冬の季語)

・願わくはこの涅槃雪もて疫に及ぼしいつしか花を愛でなむ
(涅槃雪は旧暦2/15頃に降る雪。今年は3/末に降りました。「雪がウイルスを洗い流して早く花見がしたい」ほどの歌意)

・ヤンキーに似合わぬマスク行き交ひてマンハッタンに夏は来にけり
・ひろびろと野陣たてたりセントラルパークに白き医療用テント
(新緑のセントラルパークは米国駐在時の大好きな場所でした)

・肉体の死にやや遅れて死に逝けりウイルスは野辺の送りを許さじ
(遺族による骨上げもできないとのこと、怖いウイルスですね)


『句歌集 花は葉に』には210首の俳句、70首の短歌が収録されてます。句歌集のタイトルは「花は葉に七十の坂見え初めぬ」から採ったと思いますが、”花は葉に”とは葉桜になることで、70歳=桜で言えば葉桜の時期と自覚しての自負が出ていると思います。
ご本人の会心作、あるいは「跋」をいただいた先生が取り上げた句・歌を紹介するべきなのかと思いますが、事務局が気に入った句・歌を掲載しておきます。

のっそりと齢十五の恋の猫(『句歌集 花は葉に』16頁)

母逝くや菊にうもるる高き鼻梁(『句歌集 花は葉に』36頁)

競ひあふものなきわれらのクラス会孫と常服薬の数競ふ(『句歌集 花は葉に』96頁)

高々と絡み合いつつ巻きのぼりとびとびに咲く朝顔と夕顔(『句歌集 花は葉に』99頁)


黒髪の妻と高きに登りけり(朝日新聞「朝日俳壇」2012年10月8日→「同期の表彰・話題」に当該新聞記事をアップ)

(時田注)季語の「高きに登る」は、古代中国では旧暦の九月九日にぐみの枝を「髪」にさして山に登りその実を酒に浸して飲んで、邪気を払ったり、長寿を祈ったりした、とのことです。
入選句は、近くの百名山「那須岳」(深谷からは2時間)に手作り弁当を持って妻と登った時に作りました。「黒髪」は虚構で、本意は「共白髪まで」というところです。

まくわうり母の匂いのとゞきけり(深谷市俳句大会入賞2012年10月14日)

(時田注)市原の姉が送ってきました。

亡き兄の六法全書つりしのぶ(深谷市俳句大会入賞2012年10月14日)

(時田注)兄の使い古した形見分けです。


ほほえみてほほえみて小望月(朝日新聞 埼玉文化「俳壇」2008年9月25日)

(注)挙式を控えた笑み満面のお嬢さまを題材に創ったもの

選者評

「望月の一日前の「小望月」としたところが、望月への期待をいっそう促す。」

 

花散りて歌となりけり隅田川(朝日新聞「朝日俳壇」2010年5月→「同期の表彰・話題」に当該新聞記事をアップ)

(注)彼が秋葉原の神田川の川面に桜が掛け軸のように散っていたのを見た時に、昔から好きな「ひさかたの光のどけき春の日に しずこころなく花のちるらむ」の歌を思い浮かべ、また「春のうららの…」の歌も浮かび、この句ができたとのこと。

選者評

「歌となりけり」で世界がぱっと広がった。」

人生の第三コーナー年新た(朝日新聞 埼玉文化「俳壇」2010年2月)

旅人に耳を立つるや草紅葉(朝日新聞 埼玉文化「俳壇」2010年11月)。


地の果てのかうかうたるや星月夜(朝日新聞 埼玉文化「俳壇」2013年)

選者(鎌倉佐弓氏)評

「地の果ての望外の美しさ」

(注)彼がカナダのイエローナイフにオーロラ見物に行った時に作る。


以下は「文芸埼玉(第90号)」平成25年12月に所載

山笑ひ水面はひかりたたへけり

(注)残雪の伊吹山と春光満面の琵琶湖

峠路でひらく弁当青葉風

(注)知床羅臼岳にて、オホーツクを眺めながら の海苔弁当。

山開き雲影山を駆け登る

(注)山開きの日、我々より一足先に浅間山を駆 け登る雲影。

一度はと富士に登りぬ大夕焼

(注)下山後、ホテルから眺めた富士の夕焼け。

大雪山の巨岩奇岩や月澄めり

(注)大雪山系トムラウシでのテント泊。


冬すみれ君還暦を迎へけり(朝日新聞 埼玉文化「俳壇」2015年1月27日)

(注)「冬すみれ」は夫の優しさの象徴(新聞の句評)…時田君コメント「妻の還暦への挨拶」

行方問う 町内放送聞きがたし 赤城おろしの絶え間なくして(朝日新聞 埼玉文化「歌壇」2015年1月27日)

(注)空っ風の音に流れて町内放送もよく聞こえない様子をリアルにとられていて味わいがある(新聞の歌評) 

おぼろげになりし記憶をとりもどすやうに ゆっくり芋けんぴ食む母(朝日新聞 埼玉文化「歌壇」2015年4月29日)

(注)固い芋けんぴをゆっくり食べる。おぼろな記憶を呼び戻すようという比喩がリアル(新聞の歌評)…時田君コメント「昨年の夏ごろから兵庫県たつの市に住む妻の母の認知能力が著しく低下してきて、妻は月一回一週間程度はたつのに帰るようになっていま。4月に入選した短歌はそのような母を詠んだ歌です。