1.釣り上げられた死滅回遊魚

先日、職場の私に突然県教委(教育委員会)からの電話だという。現在担当している仕事に県教委との関わりは特にないはずだし、発覚して困るような不祥事を働いた記憶もない。

電話口に出ると、担当の方いわく、中学と高校の同窓生だというTさんから問い合わせがあり、勤務校を教えて欲しいということだが、云々。

新手の商売か?という疑いを持ってしまうご時世、「同窓だという学校名とTさんのフルネーム(連絡先)を聞いて頂けますか?」
再度の電話にて何と紛れもなく私の出身県の中学・高校の名前。ただT橋氏の氏名に思い当たるところがなかったので、勤務後ゆっくりと電話することにした。

M町中学とC高校で同窓会を担当するT橋J君、一緒のクラスになったことはなかったようだ。ことさら、行方を自ら絶ったつもりはないのだけれど、学生時代から十数回の引越しで、もはや追跡調査は困難だったはず。長年の「行方不明者リスト」から粘り強く名簿空白者の所在を探し出すそのご努力に感服するのみ。

学校を終えて後、両親が住む出身県に帰ることなく当地に居ついて数十年。ただ、かの地で教員をやっているという情報から一挙に県教委へ問い合わせるという荒技を発揮したT橋君、教えられたC高同窓会ホームページを覗いてみたところ、体長88センチの大鯛を釣り上げた彼の写真が最新ニュースに!
なるほど、こんな大魚を釣り上げる腕には行方不明同窓生の一人や二人釣り上げるのに何の技も要らなかったのだろう、と納得。

「逃亡者」リチャード・キンブルの気持ちは判らないが、<*1>思わず発見されてしまうことにもいささかの安心があるのだろうか。   

数十年の回遊の末に、育った川に引き寄せられた感もある。 < *2>望郷の念とかいう感情をいささか味わいつつ遡行してみようかと思う。
(と言っても、生まれは九州、東京の小学校に転校後、母校たる中高も又、一つの通過地点でしかないのだが・・・)

ともかく、以下、中学・高校の同窓生が開いてくれた記憶の窓をしばらく覗いてみようかと思います。よろしければお付き合い下さい。

<*1>
逃亡者(The Fugitive)
(突然、タイトル・コールが始まるので、ボリューム絞った上でクリックを。)

「正しかるべき真実も、時に盲しいることもある…」の冒頭ナレーションで有名なこの連続TV映画は、「ザ、フュージティヴ!」というタイトル・コールで始まった。
"fugitive"という語は、確かに亡命者・脱走兵として当局から追われている身を言うのだろうけど、その語源"fugere/flee"は、"fly"に通ずるはず。
ワグナーのオペラ"Der fliegende Hollander"は、『さ迷えるオランダ人』と訳される。かの宿命の幽霊船の船長は、ゼンタの至上の愛によって永遠のさ迷いから解放されたのであった。

<*2>
「回遊(Recurrent migration)」
"migration"とは、鳥で言えば「渡り」のことですよね。それをまさか「逃亡」とは言わない…。
海流に乗って本来の分布域ではない地方までやって来たまま、本来の分布域へ戻る力(回遊性)を持たず、生息の条件が悪くなった場合はそこで死滅する魚を「死滅回遊魚」と呼ぶそうだ。前任校の生物の教師から宴席で教わった。何だか凄い響きを持つネーミング!

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