人事来歴

嶋田正文 著

嶋田君が、自費出版した『人事来歴』は、人事(異動)にかかわる人と人の離合や喜怒愛憎を書いています。
以下は、彼自身が収められている8篇の「あらすじ」を各200字で要約したものです。
興味を感じたら本を購入していただけるとありがたいです。

なお、挿入したポンチ絵も彼の手によるものです。絵もなかなか味があるでしょう。
1 第一線監督者
全社200名の係長研修会もようやく最終回を迎えた日、畑総務部長は、冷徹な外部講師から「今回は犠牲者を出しますよ。それは彼らの自業自得です、いいですね」と予告される。ぬるま湯的な組織風土を憎む講師、一方その風土にのんびり育った係長達、そして急に両者の間に立たされることになった畑。場所は富士山を眼前にいただく風光明媚な山梨県忍野村にある保養所。正午、研修会は畑の開会挨拶で否応なく始まった。
2 小戦
三カ月の病気療養から職場復帰したら、小島の大好きな試験室の業務が、入社数年の若手にとって代わられていた。55才過ぎの小島を待っていたのは、つらい製造現場への人事異動、すなわち合理化による間接員削減の割当てである。病み上がりの彼は、初めて履く重たい安全靴をひきずりながら製造一課へ出頭する。そこに待ち構えていたのはワンマンで張り切り屋の係長平林だ。係長のいじめに、小島の小さな戦いが起こる。
3 火燃し
誰もが見て知っているが、決して誰もやりたがらない業務がある。川口工場総務課に所属する原田は、毎日リヤカーを引いてだだっ広い敷地内を廻り、各課から出たゴミを集めてきて原始的な炉で燃やすのが仕事だ。炉の処理能力を超えてうずたかくゴミが溜まった焼却場の一隅に、ドアも水道も冷暖房もない、ぼろプレハブ小屋がある。通常それが原田の居場所であるが、炎天下のある午後、汗だくで沢野総務課員が訪ねてくる。
4 婦人ランナー
年下の演歌歌手Kに熱くしびれてファンクラブに入り、他の中年婦人と共に十代の少女のように追っかけをやってきた水沢加代、通称「加代ちゃん」が、ある昼休み、職場の年長者石岡の前にやってくる。石岡の手には、月刊陸上競技があった。加代ちゃんは西洋ナシみたいな自分の体形を示して「ねえ、あたしにも走れるかな」と真顔で聞く。人の良い石岡は「もつろんだ。めんこい頃には誰でも走っていたもんだべ」と応じる。
5 トミ
まだ二十歳そこそこだった頃に大胆で緻密な合理化案をまとめ上げ、大所帯の川口工場を赤字体質から脱却させる切っ掛けとしたのが大坪富栄だ。工場一の切れ者としてトミの名で知られ、その後、下請けのライン改善にも手を貸してきた。但し、稲妻のごとき天分を与えられたトミの気質が尋常であるはずもない。二十七歳の折、東京本社からの要請で米国の赤字子会社へ出張することになったが、出発前から荒れもようである。
6 心底
新たに技術課長として川口工場へ赴任したが、以後三カ月、なぜか職場の部下からいわれの無い集団的な反発心が向けられるのを感じていた。ぜひその理由が知りたくて、他部署の年配者に相談してみたところ、「わかった、それは大変だろう。君の疑問をそれとなく浅田という男に伝えておくから、今度の休みにでも一度彼と二人で飲んでみるといい。ゆっくり話しが聞けるような店を予約しておくよ」とアドバイスされた。
7 番犬
米国出張中、交通事故でひとりの従業員が死亡した時、現地時間は日曜の夕刻だった。一方日本はすでに月曜だ。朝十時、東京本社経由でその第一報をうけとった川口工場総務は、遺族宅とのコンタクトを開始する。凶報に呆然自失の家族だが、そんな中でも急きょの渡米、遺体の確認、火葬、遺骨帰参、自宅での葬儀、と時間はすぎてゆく。だが本社総務部があるときから工場に無断で、無神経な接触を遺族宅へ試み始めたのである。
8 バラを買う日
このところしきりに妻が、世の定年後の企業戦士の孤独ぶりを話題にしたがった。夫を心配しているのだ。女房の苦労性を笑った亭主だが、社内の主導権争いのとばっちりを受けて左遷され、気がつけばウツ状態、勤めが厭でたまらない。彼は会社にある嘱託制度を利用して再助走のステップにしようと思いつく。同時に、その余暇を利用して人材開発専門の企業の開講する再就職プログラムコースを私的に申し込み、通いだす。